有休の理由は必要か|法的には不要、それでも聞かれるのはなぜか
有給休暇の申請書に「理由」の欄があって、そこに何を書くか30分悩んだことがある。本当の理由は「疲れたから」だったのだが、それを書く勇気はなかった。私は結局「私用のため」と書いて、それすら怒られないか少し心配していた。
先に答えを書いておく。有給休暇を何に使うかは労働者の自由で、理由を会社に告げる義務はない。 これは解釈の余地がある話ではなく、最高裁が50年以上前に決着させている論点だ。
制度上の答え
年次有給休暇は、労働基準法39条の要件(継続勤務期間と出勤率)を満たせば、法律上当然に発生する。申請して会社が承認するから発生するものではない。
このことを明確にしたのが、林野庁白石営林署事件(最高裁判所第二小法廷 昭和48年3月2日判決)だ。この判決は、年休の成立に使用者の「承認」という観念を容れる余地はないとしたうえで、年休をどう利用するかは労働者の自由であり、その利用目的は労働基準法の関知しないところだと述べている。
では会社には何もできないのかというと、ひとつだけある。労基法39条5項の時季変更権だ。ただしこれは「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られていて、しかも休ませないための権利ではなく、別の日にずらすための権利でしかない。人手が足りない、忙しい、という一般的な事情だけで自由に使えるものでもない。
つまり制度の側から見ると、こうなる。理由を聞く権限はない。休ませない権限もない。あるのは、条件つきで日をずらす権限だけ。
それでも理由欄が消えないのはなぜか
制度がこれだけはっきりしているのに、現場の申請書からは理由欄が消えない。ここにも機能がある。
1つめは、シフトの調整。 病院や店舗のように人の配置が必須の職場では、「通院」なのか「旅行」なのかで融通の付け方が変わる、という実務がある。これは悪意ではなく段取りの問題だ。
2つめは、不公平感の管理。 誰かの休みで負荷が寄る職場では、周囲が納得できる説明を欲しがる。理由欄は、本人のためではなく周囲を黙らせるための道具として使われていることが多い。
3つめが、いちばん厄介で、単なる惰性。 昔から様式にあるから残っている。誰も読んでいないのに全員が書いている書類は、どの会社にもある。
1つめは実務として理解できる。2つめは、本来は上司が引き受けるべき仕事を書類に肩代わりさせている。3つめは、様式を直せば消える。ひとくくりに「理由欄は違法だ」と言うより、どれなのかを見たほうが早いと思っている。
何と書くか
現実的な話をすると、「私用のため」で足りる。これは嘘ではないし、法的にもそれ以上を求められる筋合いはない。
ただ、書き方より大事なことがひとつある。言わない自由を、後ろめたさなしで使うことだ。私が30分悩んだのは、書く内容ではなく「疲れたから休むのは悪いことではないか」という感覚のほうだった。年休はそのためにある制度で、疲れる前に使っていい。
「体調不良」と書く必要もない。実際に体調が悪いなら書けばいいが、休むために病気になる必要はない。
線を越えている場合
次のようなことが起きているなら、それは慣習ではなく制度への抵触が疑われる領域に入る。
- 理由を言わないと申請を受け付けない
- 理由の内容を評価して、認める・認めないを決める
- 忙しいことだけを根拠に、恒常的に取得を拒む
- 取得した人が、評価や賞与で不利に扱われる
いちばん下は労基法附則136条が不利益取扱いをしないよう定めている領域でもある。心当たりがあるなら、退職時の有休消化まで含めて、記録を残しておく価値がある。
違和感が消えないときの一手
正面から「理由を言う義務はないはずです」と伝えるのは、正しいけれど関係が荒れやすい。私が見てきた中で通りやすかったのは、先に日付だけ確定させるやり方だった。
「◯日に休みます」と伝えて、理由を聞かれたら「私用です」で止める。それ以上は説明しない。押し問答にしないで、事実だけ置く。これで通る職場のほうが、実は多い。
通らなかったなら、それは有休だけの問題ではないと思う。休みの理由を検閲する職場は、他のことも検閲している。
今日ひとつだけやるなら
自分の会社の就業規則で、年休の申請方法の項目を一度だけ読んでみてほしい。理由の記載が求められているか、いないか。書いていないのに現場で聞かれているなら、それは会社のルールですらない。休みの使い道に迷ったら、有休消化中にやりたいことのランキングもどうぞ。
文・kyon(project転職編集部) 手帳とToDo管理が趣味なのに寝坊する、仕事術の実験台。できる人の自慢より、できなかった日の保険になる話を書いています。
出典
- 林野庁白石営林署事件(最高裁判所第二小法廷 昭和48年3月2日判決)=年休の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、その利用は労働者の自由である
- 労働基準法(e-Gov法令検索) 第39条(年次有給休暇・時季変更権)、附則第136条(不利益取扱いの禁止)
※個別の事情によって判断は変わります。実際に取得を拒まれた場合などは、労働基準監督署や社会保険労務士・弁護士にご相談ください。
最終更新:2026年7月25日
関連記事
Transparency
この記事は project転職編集部 が作成しています。求人数など変動する数値は掲載していません。料金・制度・統計は一次情報に当たり、出典を明記しています。広告(PR)を含む場合はページ内に明示します。